ソーシャルからスローへ。メール配信で急成長を遂げるメディアたち

 2019年は、米国の『ハフィントンポスト』や『バズフィード』といった広告収益型大手メディアの大規模な人員削減というショッキングなニュースとともに幕を開けました。彼らの拠り所であったソーシャルメディアも、プライバシー保護強化の声の高まりによってクローズドな方向へシフトしつつあります。一方で、メール配信によって着実に成長を遂げるメディアも登場し始めました。今回は、そういったメール配信を主軸に置いて収益を上げる新旧メディアをいくつかご紹介します。

メール配信で成功を収めたモーニング・ブリュー

メール配信で急成長を遂げるメディア1

引用元:Morning Brew

 アレックス・リーバーマンが大学在籍時の2015年にローンチした『モーニング・ブリュー』は、メール配信をメインとする新興ニュースメディアです。現在、100万人以上の購読者を持ち、7,500万円相当のシード資金も調達し、2019年にシリーズAラウンドを目指しています。

 『モーニング・ブリュー』は、CEOのリーバーマンが「どうやってビジネスに関するニュースを入手しているか」と友人達に問いかけ、「ウォール・ストリートジャーナルを購読しているものの、全てを読み切る時間がない」という彼らの回答をきっかけに作られました。

 つまり『モーニング・ブリュー』は、ビジネスニュースを楽しく魅力的に、簡潔で読みやすい方法で提示するという目的のもの発行されています。

 『モーニング・ブリュー』は、メールに添付されたPDFファイルから歴史が始まります。2015年立ち上げ時は、モルガン・スタンレーで働きながら運営を続け、翌2016年にモルガン・スタンレーを去り、オースティン・リーフとともにフルタイムで『モーニング・ブリュー』を運営し始めます。

 上述の通り、当初は大学生に焦点を当てていましたが、現在は平均28歳の金融、技術、またはコンサルティング職で働いている層が7割を占めています。

モーニング・ブリューが配信するメルマガ・ニュースレターとは

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 ここからは『モーニング・ブリュー』のサービスコアとなるメール配信によるニュースレターの詳細についてご紹介します。

月間新規購読者数は12万人、平均開封率は45%

 『モーニング・ブリュー』は、その名の通り毎朝6時頃にメール配信によってニュースレター形式で読者に届けられるメディアです。2019年2月にはこう読者数が100万人を達成しました。

 1年前が20万人だったことを踏まえると、驚異的なスピードで成長していることが伺えます。直近の月間平均新規ニュースレター購読者数は12万人にのぼり、開封率平均45%を超える数値を誇っています。

簡潔で読みやすくわかりやすいコンテンツ

 レイアウトは日々変更し進化し続けていますが、冒頭のとおり、簡潔で読みやすいレイアウトで構成され、基本的に以下のようなコンテンツを届けています。

  • あらゆる業界における最新ニュース:ファイナンス、テクノロジー、メディア、エンターテイメント、自動車、製造、食品、小売、不動産、国際ニュース、政治、経済関連
  • 株式市場の読みやすいサマリー
  • 週次の決算発表カレンダー
  • サービスや製品に関連するスポンサードコンテンツ
  • ニュースクイズ

 モーニング・ブリューのコンテンツで、特に優れておりそしてミレニアル世代の間で人気がある点は、キャッチーなトーンと読みやすいフォーマットであると認識されています。

 コンテンツはきちんと体系化され、箇条書きの事実と考察などを、わかりやすく分割されています。こうしたモダンなレイアウトに加えてクイズやワードパズルも上記のニュースに興味のあるミレニアル世代から支持を得ています。

メール購読者を維持させる戦略

 モーニング・ブリューが実施している戦略もいくつかご紹介します。

1.現実味のあるペルソナ設定

 冒頭に紹介した通り、自分たちと近い学生をターゲットとして発刊が開始されたモーニング・ブリュー。現在も「実際に生きている人間」をペルソナとしているとリーバーマンは話しています。若く、プロフェッショナルで野心的でテック思考でビジネスに情熱を持っており、TEDトークを視聴する、つまり自分たちのような読者を想定しているようです。

2.メールを友人に紹介すると貰えるインセンティブ

 ステッカー、マグカップ、Tシャツなど。非常に成功しており、CEOは、口コミが読者成長の40パーセントを占めていると述べています。

3.開封してくれない読者への対応

 購読したもののしばらく開封しない読者には、CEOが直接メッセージが届けます。

 一方で、購読を停止した読者をFacebook広告でターゲティングして再購読を促すテストも試みたところ、最小限の効果しかなかったと語っています。

4.その他

 「モーニング・ブリュー」が実施しているその他の戦略は以下の通りです。

  • メールには全て返信する
  • 優れた編集能力に投資する
  • 到達率に気を配る

メール配信で成長しているその他のメディア

 ここからは『モーニングブリュー』以外にもメール配信によって成長しつつあるメディアをご紹介します。

新興メディア『ザ・スキム』『サブスタック』

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引用元:Substack

 Eメール人気を紹介するウォール・ストリートジャーナルの記事でも、ニュースレター配信型の新興メディアの好調ぶりが伝えられています。

 2人の元ニュース発行者が始めた毎日配信されるニュースダイジェスト『ザ・スキム』は700万人の定期購読者がおり、最近グーグル・ベンチャーズなどから1200万ドル(約13億円)を調達した。

 定期購読者向けニュースレター『サブスタック』は、2017年10月にメール配信を開始。ジャーナリストのジャド・レガム氏が毎日、政治について論じる。同氏によると無料購読者は3万7000人を超えるが、ごく一部は月5ドル払ってプレミアム版を読むという。サブスタックの運営費用を除いても、レガム氏は本人が十分だとするフルタイム収入を得ている。

引用元:Eメール人気再燃か、古くて新しい情報発信手段 SNSに不満が募る中、放置された「未知の世界」に注目する動き

老舗メディア『ニューヨーク・タイムズ』

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引用元:The New York Times

 老舗にして世界有数のメディア、『ニューヨーク・タイムズ』の近年の好調ぶりの背景にもメール配信によるニュースレターの存在があるようです。先日も1,300万件にも及ぶメールアドレスが登録されていることを発表しました。

 また、メール配信によるニュースレターの購読者は、通常の『ニューヨーク・タイムズ』の購読者の2倍以上になる可能性もあり、『ニューヨーク・タイムズ』読者の月平均2倍の数の記事を読んでいるとも伝えられており、メール配信が彼らの好景気を支えていることが伺えます。

ソーシャルメディアからスローメディア=メールへの兆し

 世界トップレベルのマーケティング調査のソースでもある『MarketingProfs』のCEOのアン・ハンドレーは、2019年に入り「メール配信のニュースレターは、もはや重要どころではなく肝心な存在。その11の理由」というブログを公開しました。その中でメール配信をスローメディアと定義し、いかにそのアプローチが優れているかを述べています。

 私はフェイスブックで過ごす時間がどんどん減っています。メール配信によるニュースレターは、フェイスブックで入手した情報とのつながりを保つ手段になりました。これによってニュースの消費速度は遅くなりましたが、それは良いことだと考えています。ソーシャル中毒者や他人のコメントによるバイアスなしに、私自身の考えや感情を抑制する時間が設けられるためです。

 メールから得た情報を、結果的にソーシャルメディア上で自身の考えを共有することもありますが、第一印象ではなくその話題に対してどう感じるかを熟考した上で発信するでしょう。他人を叩くことに熱心な独善的なユーザーに邪魔されずに一人で考える時間が設けられます。

 メールには、シェアする前に自ら考えるという役割が埋め込まれています。これをソーシャルメディアで体験するのはほとんど不可能です。だからこそ、私はメールを「スローメディア」と呼んでいます。

引用元:Your email newsletter is no longer important—it’s vital: 11 reasons why

 他にもメールは1ドル投資するごとに38ドルのリターンがある点、パーソナルである点、顧客との信頼関係の上になりたっている点などが優れたポイントとして語られています。

クローズド化していくソーシャルメディアと広告

 そして、2010年代に勢力を伸ばしたフェイスブックやツイッターといったソーシャルメディア達は新たな戦略に目を向けざえるを得ない状況にあります。

 フェイスブックは「プライバシー重視」のプラットフォームにするためポリシーを変更すると宣言しました。実際にグループ機能を拡充するなど、徐々にクローズドな方向にシフトしているように感じます。

 このクローズド化の背景には、昨今のフェイクニュースや個人データ流出、EUで施行されたGDPR、そして2020年1月施行予定の消費者プライバシー法などのプライバシー保護強化の波があります。

 そしてグーグルやアップルもこれらを背景に、自社ブラウザの行動ターゲティング広告で使われるクッキーの規制強化を2019年の5月に発表しました。

 これらのGAFAのクローズド化、規制強化の動きもメール配信・ニュースレターの価値や位置付けを再定義する要素になるかもしれません。

まとめ

 メール配信によって急成長を遂げる新興メディアの戦略や事例を背景にメール配信が、ソーシャルに代わるスローメディアとして再定義されつつあるという内容をお伝えしました。

 ここ数年のメール配信・メールマーケティングは、AI、ビッグデータ、オートメーションといった側面で語られがちでしたが、また別の側面でも価値を再評価されつつあることがおわかりいただけたかと思います。

 第三者が常に介在するソーシャル・プラットフォームではなく、独立した環境で顧客へメッセージを届ける/やりとりを行うことの重要性が改めて注目されているようにも感じます。

 今後も引き続き”スローメディア”としてのメール配信の近況もお伝えしていきます。最後までお読みいただきありがとうございました。

著者
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